1.疫学
骨盤骨折は高齢者や若年層の外傷に関連する骨折です。一般的には高齢者が転倒によって生じる低エネルギー外傷や、若年者が交通事故や高所からの転落などの高エネルギー外傷によって発生します。特に高齢者では、骨粗鬆症による骨強度の低下が要因となります。骨盤骨折は全体の骨折の約3%を占め、高齢化社会に伴ってその発生率は増加傾向にあります【1】。
2.原因・誘因
骨盤骨折の原因は年齢層や外傷の種類によって異なります。主な原因には以下のようなものがあります:
- 高エネルギー外傷:交通事故や高所からの転落が主な原因です。これらの外傷では骨盤の複数部位が損傷することが多く、内臓や血管への損傷を伴うことがあります。
- 低エネルギー外傷:高齢者が日常生活での転倒などによって起こす骨折です。特に骨粗鬆症を伴う高齢者では、わずかな衝撃でも骨折するリスクがあります。
- 骨粗鬆症:骨密度が低下している状態では日常的な動作や軽微な衝撃でも骨折するリスクが高まります【2】。
3.症状
骨盤骨折の症状は骨折の種類や場所、損傷の程度によって異なりますが、一般的な症状は以下の通りです:
- 強い痛み:特に股関節や腰、臀部周辺に痛みを感じることが多いです。痛みは座ったり立ち上がったりする動作で増強します。
- 腫れや内出血:骨盤内の血管が損傷されることによる内出血や腫れが見られることがあります。
- 歩行困難:痛みや骨盤の不安定性のために歩行が困難になることが多いです。
- 臓器障害:骨盤骨折に伴い、膀胱や腸、神経など周囲の臓器が損傷を受ける場合があります。
4.診断
診断には以下の方法が用いられます:
- 身体診察:骨盤周囲を圧迫した際の痛みや不安定感を確認します。
- X線検査:最初に行う検査で、骨折の有無を確認します。
- CTスキャン:骨盤骨折の詳細な評価が必要な場合や複雑な骨折が疑われる場合に行われます。CTにより骨折の正確な位置や程度、臓器損傷の有無を確認できます。
- MRI:神経や血管の損傷の有無を確認するために使用されることがあります。
5.治療及び予後
治療は骨折の種類や程度、全身状態によって異なります。
- 保存療法:軽度の骨折や安定型の骨折の場合、保存療法が選択されます。痛みの管理や安静、理学療法が主な治療方法です。
- 手術療法:不安定型の骨折や内臓損傷を伴う場合、手術による整復固定が必要です。手術では骨折部位を金属プレートやネジで固定します。
- リハビリテーション:治療後は早期のリハビリテーションが重要です。特に高齢者の場合、長期の臥床は筋力低下や合併症のリスクを高めるため、可能な限り早期に歩行訓練を行います。
予後は治療の適切性や患者の全身状態に依存します。軽度の骨折であれば数ヶ月で回復することが多いですが、重度の骨折や臓器損傷を伴う場合、合併症や後遺症が残る可能性があります【3】。
6.予防
骨盤骨折の予防には転倒予防と骨の健康維持が重要です。
- 骨粗鬆症対策:カルシウムやビタミンDの摂取、適切な運動が骨強度の維持に役立ちます。特に高齢者では定期的な骨密度検査と必要に応じた薬物治療も考慮されます。
- 転倒予防:自宅の環境を整え、転倒のリスクを最小限にすることが重要です。滑りやすい床を避けたり、手すりを設置することが有効です。
出典:
- Kannus, P., et al. (1996). “Pelvic fractures in elderly people.” Journal of Bone and Joint Surgery.
- Rommens, P. M., & Hofmann, A. (2013). “Comprehensive classification of fragility fractures of the pelvic ring.” Injury.
- Tile, M., & Helfet, D. L. (2003). “Fractures of the pelvis and acetabulum.” Springer.